「荒海や佐渡に横たふ天の河」松尾芭蕉

 真冬の荒天による欠航後に、学生を佐渡−新潟航路のフェリー見学に連れ出 したことが何度かある。船酔いを我慢しての見学は、意地の悪い教員と思われ、 残念ながら不評であったが、それは本意ではない。
 佐渡航路は、日本海に浮かぶ孤島と本州を結ぶ大切な生命線である。佐渡に 暮らす人たちの必要な物資の輸送はもとより、乗客の安全のために、昼夜を問 わず働き続ける人たちに支えられて、佐渡の暮らしは成り立っている。激しい 揺れの操舵室、機関室の騒音と息苦しさ、そのような中で人も機械も凛然と構 え、黙々と働き続けていることを見て欲しいのだ。
 人間は誰でも、まず自己中心的に考え行動する。精神的成長と共に、自分の 視野に自分以外の存在に気づき始め、「思いやり」と言う意識を膨らませてゆ く。やがて、自分と他者の世界をしっかりと考えられるようになる。 精神的成長、大人になるとは、他者の心を自分の心に取り込めるようになるこ とである。
 この世紀が再び戦争の時代になるか、平和な時代になるかは、君たち若者に 全て託されている。君たちが、年寄りや子どもたちより大きな力を持った時に、 「思いやり」という意識を行動の中に取り入れて、周りの人々を幸せにしてあ げている姿を、僕は夢見ている。「周りの人々」の中に、日本だけではなく、 世界中の人々も含まれているならば素晴らしい。
 科学・学問は「なぜ」という素朴な疑問をしっかりと考え、その答えを自分で探し続ける営みである。「なぜ」を探し続けることは、必ず君たちの人生を助けてくれる。いかに真剣に考え、いかに広く深く想いを 巡らすかで、その人の深みと広さが培われる。生きがいを探すとは、自分を支 える何かを探すことである。逆説的だが、人を支えることが、実は自分を支え ていることでもある。生きとし生けるものは、皆すべて、互いに支えあって生 きている。その支え合いをいかに多く実行したかが、自信というものにつなが るはずだ。