幸せになるために
桜前線が、気になる季節をまた迎えた。大学キャンパスは、受験から解放さ
れ、希望に胸をふくらませた新入生であふれる。苦労の多い割に報われること
の少ない教育・研究が始まるのかと、その華やかさとは裏腹に、私は一種憂鬱
なものを感じる。
外国語の一つも満足に使えない、しっかりした古典の一冊も読まずに卒業す
る学生も少なくない。そう考えると、学ぶと言うことは決して楽ではない。し
かし、入学した初心の幾ばくかは、学ぶことにあったはずだ。じっくり何かを
学んだり、考えることは、仕事に就き家庭を持てば、さらに困難になるのだ。
大学時代にしかできない大切なことは、学ぶことに尽きる。青年期に知的トレー
ニングは不可欠だ。青年期の学びは、豊かな価値観を育み、君たちの人生を必
ず支えるはずだ。
就職難のもとで大学の就職対策はますます過熱し、かつ学生の積極的な参加
も目につく。しかし、そこにあるのは学生の適正や希望を考えもしない、画一
的で貧相な就職対策にしか過ぎない。要は、各大学の就職率の競争のためだ。
何も考えない学生は就職不安をあおられ、試験対策、面接の心構え、と目を奪
われる。第一希望の不採用を皮切りに次々と夢を失い、採用されそうな就職口
を探すようになる頃には、人生はどうでもよくなる。たった一度の人生なのに、
実に痛ましい、哀れな姿だ。こんなことでは,人生の目標を見つけられるはずがない.
進学校、よい大学、有名企業の人生が、本当に幸せなのか。競争は、大量の
敗者と落伍者を必然的に作り出すだけだ。入学という人生のターニングポイ
ントに声をからして訴えたい。「君たちが本当に幸せになるために大切なこと
は、必死に学び、考え、力を合わせることに尽きる」と。くれぐれも,安易な評価に誘惑されて,ごまかしだらけの講義に足を運ばないよう祈る次第だ.